ラバウル
ニューギニア本島の北側、ビスマルク海をなす島のひとつニューブリテン島は、約40万平方キロメートルの大地に約32万人が暮らす島、ウェストニューブリテン、イーストニューブリテンという東西2州に別れ、北端の町ラバウルの名は太平洋戦争時、旧日本軍の基地のあった場所として多くの日本人に知られる。かつてはその旧日本軍の空港のひとつが使われていたが、1994年の火山の噴火で町の大半と滑走路は灰に埋もれ、人々は20キロほど離れたココポという村に新しい町をつくり飛行場も移設され現在に至っている。
独特な神秘性をもつ民族儀式
パプアニューギニアの主要な町では年に一度、「シンシン(民族舞踏)ショー」と呼ばれる民族の祭典が行われていて観光名物になっている。中でもニューギニア本島の高原地帯マウントハーゲンやゴロカで行われる「マウントハーゲンショー」や「ゴロカショー」には世界中から見物客が訪れる。これらのショーの出演者たちはその開催地域に住む民族を中心に構成されているので、ところ変われば出演する民族もかわる。特に島嶼地域の場合にはなおさらにこの傾向が強い。その島嶼地域最大のシンシンショーが今回紹介するニューブリテン島ラバウルの「マスクフェスティバル」だ。ここでは当然のことながら他のシンシンショーでは決して見ることのない、独特な伝統文化と宗教儀式で舞うシンシンを目の当たりにすることができる。
マスクフェスティバルの幕開けは、かつてラバウルの沖合いに浮かんでいた小島で現在は地続きとなっているマチュピット島に住むトーライ族の男子成人の儀式「キナバイ」で始まる。空が白んでくる夜明け前、太鼓の音と男たちの声が朝もやの空気を振るわせる。遠くに輝く松明の光の点がゆっくりと水面から近づいてくると、朝靄の中に小船が浮かびあがってくる。船には男たちがひしめき歌い、漕ぐ。中心には笹の葉を玉状に纏い、てっぺんに羽飾りをつけ目玉を描いた尖がり帽子をかぶった不気味だがどこかコミカルで見覚えのあるような妖怪の姿だ。これは修行を終えた男子が船に載せられて村に戻ってくる場面である。漫画家の水木しげるさんは太平洋戦争でここラバウルに出兵して爆撃にあって腕を負傷して帰国されている。その間地元の村人とよく交流し、戦後も何度となくこの地を訪れ「ここは楽園」と書かれている。水木先生もこのキナバイを見たことだろう。トゥブアンと呼ばれるこの妖怪たちは精霊の姿だという。全身を激しく前後に揺さぶるようにして踊っている。別のトゥブアンを載せた小船があとから2艘、3艘と続いてやってきた。
やがてボートが岸に着くとこの精霊たちは、フェスティバルの会場となるクイーンエリザベス公園へと向かってゆく。会場では一列に正座した精霊たちをひも状に綴ったシェルマネー(貝の貨幣)で鞭打ち、堆く積まれたバナナの周りを廻る。通常この場面は女人禁制で観光客であっても女性は見ることができないが、年に一度のこのショーでだけ見ることができる。儀式の各々の所作が何を意味しているかは一切わからないし説明もない、彼らのみが知るのかもしれないし、あるいは彼らも悠久の時の中で本来の意味を置き忘れてしまっているかもしれない。広場での儀式がおわると精霊たちは海のほうへ去っていった。
このマスクフェスティバルで出演する部族は、ここニューブリテン島とその周辺の小島群、そしてカビエンを有するニューアイランド島と周辺の小島群という島嶼地域から多くの部族が参加している。トーライ族キナバイに続き地元ニューブリテン島やラバウル沖合いの小島ディーク・オブ・ヨーク島、またニューアイルランド島の各部族が、色艶やかな衣装や個性的なコスチュームに身を包み、自分たちの部族の言葉で歌い、快活に踊る。何にも似てないメイク、陽気なマスク、怖いマスク、各部族が独自性を力強く感じる。
会場では出演したラバウルの一部族から日本人来場者に向けた日本語のアナウンスが流れた「こんにちは、日本の人は昔、喧嘩をしに来ました。でもまた来てくれた・・・ありがとう」。予期せぬアナウンスに居合わせた日本人から歓声と拍手があがった。