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阿部秀樹ポートレート

阿部 秀樹 プロフィール

阿部 秀樹 (あべ ひでき)
1957年、神奈川県藤沢市に生まれる。立正大学文学部地理学科卒業、現在阿部秀樹写真事務所代表。最近は日本国内の海に眼を向け知床半島から沖縄まで幅広く活動している。ライフテーマとして水中生物の繁殖行動、夜の海、水中の四季、の撮影がある。又頭足類(イカ・タコ)では国内外の研究者との連携で撮影をおこなっている。

阿部 秀樹ホームページ
http://www.hideki-abe.com/

阿部秀樹パプアニューギニアギャラリー

大自然に囲まれた未知の可能性を秘めた国パプアニューギニア(PNG)。この地へは成田から僅か6時間、それも直行便で訪れることが出来る。PNG付近は南に珊瑚海・北西にインドネシアを控える世界有数の魚の宝庫で、まだまだ新種が“うじゃうじゃ”いる凄い場所、現地に到着する前から期待で胸が高鳴る。

今回、首都ポートモレスビーのあるニューギニア島の直ぐ北に位置するニューブリテン島のワリンディーで潜る機会を得た。椰子の木立を眺めているうちにワリンディーにあるプランテーションリゾートに到着、荷物を解くのもそこそこに海岸線に出てみた。眼前には海岸線まで迫った深緑の森林、その緑色の大地と対比するかのように紺碧の海が広がっていた。そして足元には無数の小魚達が戯れている。これを見ただけでこの海がいかに豊かであるかがわかる。

この旅の目的は「変身ダコ」“ミミックオクトパス”を見つけて撮影する事だ。このタコは危険を感じると色々な生物に変身して難を逃れる芸達者な奴、西・南太平洋の砂底に生息している。ここワリンディーではビーチポイントで発見例があったので楽しみだ。

初めの3日間はボートポイントを潜ってみた。ボートポイントはミミックオクトパスの生息する環境とは無縁の珊瑚が生い茂る場所と聞いていた。ミミックを捜す事に関しては関係のないように思えるポイントだが正反対の環境を知る事もとても役立つ。珊瑚の生え方を見ればその場所の平均的な潮の動きが判るし生物層も見えてくる。だからこれも重要なダイビングである。海の中に入ってみると予想通り、魚の多さはピカ一だった。チョウチョウウオ類やヤッコ・スズメダイ類などが特に多くこの地域だけの固有種も直ぐに見る事が出来た。何よりも驚かされたのはサンゴのコンディションが非常に良い事だ、枝は太陽に向かって生き生きと伸びこれを見る事が出来ただけでもここに来た価値があると思えるほどだった。このサンゴの美しさを撮影するだけでも1週間は時間を掛けたいと思ったがそれではミミックに会う事が出来なくなってしまう、4日目からはビーチポイントを攻める事にした。

ビーチポイントはリゾート内のダイビングボートの発着桟橋からエントリー出来る。延々と砂浜を歩く事も足場の悪いリーフエッジを歩く事も無く楽々エントリー出来るのが嬉しい。エントリーして直ぐの桟橋脇で数百匹のギンガメアジとヒメツバメウオの洗礼を受ける。そして海底に眼を移すとオイランハゼが私を見つめている。エントリーして数分後にこれだけの魚に囲まれるのはこの場所がいかにいい環境であるかを物語っている。ギンガメアジの饗宴を名残惜しく思いながら、水深4〜5mのリーフエッジを探索してみた。リーフエッジと云っても内湾のエッジなのでサンゴが“わんさか”という感じではなく泥地ありガレ場ありの地形だ、しかしこの底質の為に日本では見る事の出来ないカニハゼを初めとして非常に多くのハゼ類がここを住処にしていた。ハゼ好きならばここだけを数日間攻めても飽きる事はないだろう。

次はいよいよミミックオクトパス探しだ。このタコは水深10〜20mの砂泥底が主な生息域なので少し深度を下げてみる。ここでも多くのハゼ類が私を出迎えてくれた。探索を続け水深14m辺りをうろうろしている時だった。小さな黄色の体色のハゼが目に入った。近づいてよく見ると背中に白い線が一本、ナカモトミジンベニハゼだ。この2cm足らずの小さなハゼは世界で沖縄の一部地域とここPNGでしか見られない。更に驚くべきは沖縄では水深35mよりも深い所でしか確認されていないのだ。これには驚き!沖縄で減圧を気にしながら撮影したことを思い出して水中で苦笑い、ストレスのない浅場で撮影できることのなんと幸せな事か。そして日本ではあまり見る事が出来ないメナガガザミも非常に多い。このカニは眼柄が非常に長くこの眼柄を上に向けてまるで潜望鏡のようにしてこちらの様子を伺っていた。まったく面白い姿をしたカニだ。

ゴカイ類の作った富士山のようなマウンドを集中的に見て廻る。ミミックオクトパスはこのようなマウンドの上に眼だけを出して辺りの様子を伺っていることがおおいからだ。幾つかのマウンドをチェックすると「いたいた」今回の主役ミミックオクトパスが。少し離れて観察すると体を持ち上げこちらの様子を伺っている。近づいては引っ込み、離れると体を伸ばしてこちらの様子を伺う、危険を察知したのかシタビラメの姿に変身して海底を滑るようにして移動を始めた。このタコは実に色々な物に変身をする。体を扁平にさせて砂地と同じ体色になって隠れるなんていうのは当たり前、ウミヘビに化けたり有毒魚であるミノカサゴに化けたりして外敵を威して危険を回避しているのだ。帰国する直前、初めて小さなミミックも見る事が出来た。胴体の大きさは1cm弱、腕の長さを入れた全長でも5cmにも満たない赤ちゃんだ。撮影を始めた瞬間、海底から“ふゎ”っと浮かび上がり腕を広げて浮遊を始めた。この状態で10m以上も浮遊していたが一見するとクラゲのようなウミシダのような、不思議な姿だ。このような小さな個体は殆ど観察例がないらしい。

今回、PNGでは多くの生物、固有種に出会うことが出来た。特にビーチポイントでは流れも無く水深も浅くストレスなく潜れ、ミミックオクトパスの赤ちゃんを初めとして新発見も多かった。自然の息吹に身を任せ椰子の木を通り抜ける緩やかな風の中でのんびりとダイビング、最高の贅沢を感じられる旅だった。